悪妻論

坂口安吾

悪妻論書籍情報

底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房
   1998(平成10)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「婦人文庫 第二巻第七号」
   1947(昭和22)年7月1日発行
初出:「婦人文庫 第二巻第七号」
   1947(昭和22)年7月1日発行
入力:tatsuki
校正:oterudon

悪妻論 9

坂口安吾

 然し、しからば悪妻は良妻なりやといへば、必ずしもさうではない。知性なき悪妻は、これはほんとの悪妻だ。多情淫奔、たゞ動物の本能だけの悪妻は始末におへない。然し、それですら、その多情淫奔の性によつて魅力でもありうるので、そしてその故にミレンにひかれる人もあり、つまり悪妻といふものには一般的な型はない。もしも魅力によつて人の心をひくうちは、悪妻ではなく、良妻だ。いかに亭主を苦しめても、魅力によつて亭主の心を惹くうちは、良妻なのだらう。
 魅力のない女は、これはもう、決定的に悪妻なのである、男女といふ性の別が存在し、異性への思慕が人生の根幹をなしてゐるのに、異性に与へる魅力といふものを考へること、創案することを知らない女は、もしもそれが頭の悪さのせゐとすれば、この頭の悪さは問題の外だ。